大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)993号 判決

(二)右に認定した事実ならびに前顕採用証拠によれば、生嶌は、本件土地の売買代金中少なくとも金二五〇万円については、これを原告のために運用し利殖する意思は全くなく、かえつてこれを自己の被告に対する借金の返済に利用することを企て、そのためには原告を欺罔し本件売買契約を締結させようと意図していたものであること、一方、原告は、生嶌の右意図を察知していたならば、本件売買契約に応ずる意思は全くなかつたものであること、しかるに、生嶌は、原告に対し、右意図を秘匿して、あたかも原告のため本件売買代金の全部を運用利殖するかのように装い、種々詐言を申向けて原告を欺罔し、被告との本件売買契約締結方を勧誘し、原告をして、本件売買契約が成立すれば、真実生嶌が、その売買代金全額を自己のために運用利殖してくれるものと完全に誤信させて被告と本件売買契約を締結することを決意させたこと、そこで、原告は、右決意に基づき、右のように詐欺されているとも知らず、生嶌を信用して同人に本件売買契約の締結方を指図委託して、同人を原告代理人として被告と本件売買契約を締結したものであること、これにより生嶌は前記の意図を実現するに至つたものであること、生嶌の原告に対する右詐欺行為について、被告が、共謀、教唆、幇助その他の加功をした事実は認め難いけれども、被告は、少なくとも本件売買契約締結までの間には、前記のように、生嶌が原告に対し詐欺を行い、原告が完全に欺罔されて本件売買契約の締結を決意し、生嶌を原告の代理人にまでして本件売買契約を締結するものである事情をそれとなく知るに至つたものであり、右の情を知りつつ本件売買契約を締結したものであること、昭和三九年六月一二日夜、前記のとおり、被告が生嶌から小切手二通(額面合計三〇〇万円)の返還を受け、生嶌との間に右小切手金中二五〇万円を以て生嶌の被告に対する借金二五〇万円の返済にあてる旨合意した際にも、被告は、右の合意が全く原告の意思に反するものであり、生嶌が、ほしいままに無権限でなすものであることを知つていたものであること、以上の事実を認定することができる。

原告、被告各本人尋問の結果、原審ならびに当審証人生嶌貫二の証言中、右認定に反する部分は、前顕採用証拠ならびに弁論の全趣旨に照らして俄に信用できないし、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、原告は、被告に対し、生嶌の詐欺を理由として、本件売買契約を取り消すことができる。(民法第九六条第二項。)」

6 原判決理由第一、六、二行目(原判決一三枚目表七行目)「主文第一、二項」を、「当審判決主文第二項1、2」と訂正する。

一、(民法第九六条第二項について。)

第三者が、本人を欺罔して相手方と売買契約を締結せしむべく、本人に対し詐欺を行い、その結果、本人をして売買契約の締結を決意させた上、みづから本人の代理人となり相手方と売買契約を締結した場合において、相手方が右の事実を知つているときは、本人は、相手方に対し第三者の詐欺を理由として右売買契約を取り消すことができる(民法第九六条第二項)と解すべきものであり、かく解することは同法第一〇一条の法意に照らし、同条の規定に何ら反するものではないというべきである。そして、本件事実関係が右の場合に該当することは、前記認定判断(引用原判決理由を含む。以下同じ。)のとおりである。この点に関する控訴人の主張は採用することができない。

二、ところで、当裁判所は、売買契約が、詐欺を理由として、民法第九六条第二項により取り消された場合においても、売主、買主の原状回復義務については、特別の事情のないかぎり、同法第五三三条を類推適用すべきものと解する。(最高裁判所昭和二八年六月一六日第三小法廷判決・民集七巻六号六二九頁参照。)そして、叙上認定説示にかゝる本件事実関係のもとにおいては、本件売買契約が詐欺を理由として取り消されたことにより、原状回復義務として、控訴人は被控訴人に対し主文第二項1、2掲記の各登記手続をなす義務を負い、被控訴人は控訴人に対し前記内金一〇〇万円の返還義務を負うものであるところ、控訴人、被控訴人の右各原状回復義務は、同法第五三三条の類推適用により、同時履行の関係に立つものといわねばならない。

(柳川 後藤 平田)

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